愛なんて まやかしだと。

そんなものは信じないと アナタが 泣くから。


オレは、自分のできる 一番あたたかい方法で
アナタを繋ぎとめようと 思う。








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長い、指。


俺のごつごつしたのと違って 白くて、すらりとのびて。



彼が印を組むのなんて、数えるほどしか見たことがないし、 ましてや、共に肩を並べて戦ったことなんて、ない。
けれど、きっと彼はしなやかに、寸分の狂いもなく 美しい技を紡ぎ出すのだろう、と 思う。





初めて受付所でペンを走らせる彼の手を見たとき、 純粋に、きれいだ、と思った。

だから思わず、 「きれいな手ですね。」 と。




言った途端、“しまった”と思った。
銀色の彼は、目を見開いてこちらをじっと見詰めた後、 ふ、と 寂しそうに微笑した。



・・・泣くかと思った。


冷静に考えてみればおかしな話だ。彼のような強い男が『泣く』だなんて。
――――でも、そのときは何故だか 本当に彼が泣くのではないかと思った。



寂しそうに笑った彼は、頬を掻きながら言った。


「アナタの手の方が、ずっときれいですよ」





それ以来、彼の手については、禁句のようになった。
深く、親しくなってからも、あの寂しい笑顔を思い出し、俺は何も言えなかった。
ただ、すらりとした彼の手を見て、『きれいだ』と思うだけ。

けれど、それでも 俺に見られていることに目敏く気付くと、
彼は、またあの寂しそうな笑顔をちょっと浮かべて 何気なく、手を隠すようになった。



・・・この人は、恥じているのか。
自分の、手を。
数多の命を手にかけた、自分の手を。
汚れていると。




――――そんなことはない。


彼の手は、きれいだ。
子供たちの頭を撫でてやる、大きな掌。
小さな者たちを導き、見違えるほど成長させた、暖かな手だ。

そして、寒い夜には、温もりを。 寂しい時には、誰よりも早く気付いて、そっと、抱き締めてくれる手。
一人涙するときには、そっとそれを拭って、 ふわりと頬を包み込んでくれる指。
彼と共に、いつも俺の記憶の中にある

優しい、手だ。





俺は、少しずつ、 彼の手について、話すようにする。

彼の手をとって、『あたたかい』と。
彼の指に自分の指を絡め、『長い指ですねぇ』と。
掌に、自分の掌を重ね、『あぁほら、やっぱりカカシさんの方が指長い。けど、掌は俺の方がでっかいですね』

彼の手に自分の手を重ねて、そっと額に当てる。
『いつも、里を、みんなを、護ってくれて ありがとうございます』


彼の、すっとのびた掌に。 器用に印を結ぶ指に。
美しいそれに。 感謝します。







・・・彼は、少しずつ変わった。

おずおずと、俺の手に自分から触れてくれるようになり、
そっと、掌に手を重ねてくるようになった。






ある日、アカデミーの木陰で、 日に透かして、自分の手をじっと見ているカカシさんに気付いた。
光の透ける自分の手を、そこに流れる血を、確かめるように。

「カカシさん」と声をかけると、 彼は、ゆっくりこちらを向いて、にこ、と笑った。





あぁ、もう 大丈夫だ。




俺は彼の隣に座り、一緒に彼の手を見上げる。
光を通して、暖かな色に染まる、すらりとした手。


「きれいな手ですね」

俺が言うと

「ありがとうございます」

と。 彼は嬉しそうに笑った。