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寒いから、人恋しくなるのか ひと恋しいから 寒くなるのか。 こんな、夜空も凍るような寒い夜は、特に。 どちらとも無く 誘い出した深夜の逢瀬。 寄り添うでもなく、互いの温もりを分かち合うわけでもなく ただ、どちらとも無く歩き出す。 静かに、静かに。 暗闇に、白い息だけがふわりと広がって、消える。 やがて、辿り着いた小高い丘の上。 木の葉の町の灯が、足元で 無数の星のようにきらめいていた。 天を見上げると、凍って落ちてきそうな幾千もの星が、無限の暗闇にへばり付いている。 境界線の曖昧な空と地上。 こうして町の灯を見下ろしていると、 自分がどちらに属するものか、次第に解らなくなってくる。 この、小さな宇宙に尽くし、この小さな宇宙に散る そんな忍びの生き方は、まるで、舞台上の寸劇のようで。 それは この視界に映る全ての場所を舞台とした、小さな演劇だ。 その無限の大きさと儚さに、眩暈がする。 こんな身も凍るような夜は、特に。 「きれいですねぇ・・・」 「――――そう、ですね・・・」 どちらともなく、ぽつり、ぽつりと交わされる会話。 ふ、と音もなく吐かれた息が、白く闇の中を立ち上ってゆく。 傍らに立つお互いの体温が密やかに伝わり、 その温かさが、お互いの存在を 静かに主張していた。 足元の曖昧な、この果ての無い小さな暗闇の中、 今 確かに存在しているのは、二人だけだ。 「・・・あの星、ね。イルカセンセ」 「どの星ですか?」 「あれ。月の少し右下をちょっと行って・・・あそこの、明るい」 「・・・あれですか?黄色がかった、小さな」 「そうです。それそれ。」 カカシが幸せそうに笑う。 覆面の下から、少しくぐもった温かな笑いが聞こえる。 「――――あの星、イルカセンセみたいですよね」 「・・・あれが?・・・そうですか?」 「そうそう。小さいけど、こんな空の中でも一際、あったかそうで。」 オレね、任務に出るでしょ。それで、空を見上げるたび、あの星 探しちゃうんですよ。 見つけられると、嬉しくて。 あぁ、やっぱりあったかそうだな、と思って。 「勝手にオレの中では、あの星は『イルカセンセイ』ってことになってるんです」 だから あの星を、アナタにあげます。 からかう様な調子の声とは裏腹に じっと虚空を見詰めるカカシの目は、驚くほど真剣なもので。 イルカは 冗談を混ぜて返そうと準備していた言葉を、呑み込んだ。 「・・・なら、カカシさんは、あの星ですね」 あの星。 イルカが指したのは、小さな黄色の星から少し上にある、赤い星。 「・・・赤いのですか?」 「そうです。それそれ」 真似をすると、カカシが小さく笑うのが聞こえた。 「いつもこんなきれいなのに近くにいてくれるから、俺は思わず追いかけてしまうんですよ。 少し上で輝くあなたを」 ふふ、と笑んで、イルカはカカシを見た。 「だから、俺は あの星をあなたに。」 カカシが、大きく息を吸って、虚空へと吐いた。 温かな身体から一際白い息がふわりと広がり、星を薄くぼやかせる。 「――――いいですね、それ」 「ええ。」 「素敵ですね」 「・・・本当ですね」 息を大きく吸い込むと、肺に流れ込んだ空気の冷たさで 少し涙が出た。 「イルカセンセ」 「何ですか?」 「ずっと、あそこにいてくださいね」 ずっとオレの、傍に。 イルカは少し笑う。 「ええ。分かりました」 「ずっと、ですよ?」 「―――――分かってますよ」 そっと伏せた瞼に、温かな口付けが降りてきた。 明日をも知れない、そんな 書き割りの中で それはまるで、星を数うる如し。
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