まず、メスかな。


オレの体は、多分バラバラにされちゃうから。
オレみたいな奴の体は、結構価値があるらしくて 秘密を皆が知りたがるから。
眼、から始まって、髪、皮膚、筋肉、内臓。
キレーにバラバラ。
そんなとこ、な〜んにも隠れてないと思うけど。
オレはオレで、何にも秘密なんてないから、
何だか、自分じゃ良く分からないけどね。


医療班の、白い、服、服、服。
日に当たる事を知らない奴らの、白い顔。

それから、火。
真っ赤な炎。
刻んだオレの体、欠片も他の国に渡らないように
木の葉の秘密が漏れないように。
普通の火じゃ、灰が残ってしまうから、
塵すら残らないような特別製の忍術で。

その炎、すごく赤くてね
何だかおもちゃみたいなんですよ。


オレはキレイに大気に溶けて、
ふわふわ 木の葉の中を飛ぶ。


黒。
黒い葬列。
もうとっくにこの世には存在しないオレを 送ろうとする鎮魂式。
別に、悲しんでくれるのを期待してるわけじゃないよ。
むしろ、オレがいなくなって清々してる奴らが大半だと思います。
里の義理で出席する祭典。
それらが集まってできた、無数のカタマリ。
空から見たら、きっと真っ黒に見えるだろうね。

・・・あ、
金色、桜色、ちょっと青味がかった黒。
小さな三つの影が、これまた小さく身を寄せ合ってるのが見える。
見えた。
小さく・・・震えてるのかな、あいつらは。
・・・そうだね、もし、オレにも泣いてくれる人がいるとすれば、
こういうのがいいな。先生は嬉しいぞ。
立派な忍びになれよ。
大好きだったよ、お前らのこと。


そして、森や、夕焼けの空。
緑の合間を縫って、木の葉の慰霊碑。

――――そこに、アナタはいるんです。
きっと。
葬式になんて出ないで、石に刻まれたオレの名前を、ぼんやり、確認してるんだ。
『あんな馬鹿でしつこい男が、カカシさんみたいな人が、そんなに簡単に俺の前からいなくなるわけないだろう』
『暗くなってきたから、俺は見間違えてるだけなんだよな、きっとそうだ』
とか思ってね。
そして、アナタの 手。
ちょっとかさかさして、暖かいアナタの手、好きです。
あったかい指が、確かめるように石碑に彫られた窪みをなぞって



それで、アナタは初めて泣くんだ。
崩れ落ちるように、石碑の前に腰を落として。
透明な、水滴。
頬を伝った温かな涙は、流した傍から冷たい空気で冷やされていくけど
その冷たさも、追い着かないくらい。
暖かい滴が、ぱたぱたと石碑にかかるんです。きっと、すごく興奮するだろうな、オレ。
泣いてるアナタの涙を、石碑になって受け止めて、濡れる頬を、風になってそっと拭おう。
愛してますよ。
これからも、きっと。

ずっとね。


そして、最後。
オレは風を切って天に昇って
・・・雪になります。
ふわりふわり、あなたの肩に、頭に、背中に。
舞い落ちて、そっとアナタを抱き締める。
アナタは気付くかな。気付かなくてもいいや。
オレは気の済むまでアナタを抱いて、そうして、アナタの熱で消えるんです。

・・・あぁ、なんだか、すごく嬉しいな。

アナタがオレの為に泣いてくれる、って思えたことが、今、すごく嬉しい。

ね、イルカセンセ。これがオレの考える、世界の終わりセット。





そう言って笑ったオレを、あの人は何も言わず、ただ、ぎゅっと抱き締めた。

 







世界の終わりセット