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どこか遠く、誰も知らない所へ
連れて行っておくれ
屋上に行こうよ。こんな夜は風が強くてきっと楽しい。ツナがそう言うものだから、獄寺は報告書をまとめる手を止めた。
「大丈夫でしょ。嵐の守り神がここにいるんだから」
ねぇ、と獄寺の頭の中を読んだかのようにツナが微笑む。中学の頃よりすっきりと尖ったあごを僅かに引き、目元を緩ませてこちらを見上げてくる彼に、獄寺はいつものことながら心臓を跳ねさせた。
こんなときの自分の笑顔の効力を、ツナはこの数年の間に理解していた。悪い顔になったもんだなぁ、と獄寺は内心溜息をつく。そして、そんなボスにはどうやったって抗えないことも、彼は身を以て知っていた。
雨が強くなってきている。怪物の空洞の体内を通り抜けるような、奇妙にこもった風の音が、外から窓を押しつぶしている。
「せっかくだから、山本も呼ぼう?こんな台風じゃ、きっと練習もできてないよね」
「は・・?なんだってあの野球バカをわざわざ・・」
反射的に寄った獄寺の眉間のしわに吹き出し、その険しい眉を指さしてツナが笑う。
「まーた、きみは。いいじゃない、皆でいたいんだ。」
きっともう最後になるから、と笑顔をつくる青年に、静かに言葉を無くして 獄寺は目を伏せた。
「ツナがわがまま言ったのな?めずらしー」
携帯に連絡すると、すぐに繋がった山本は、日のすっかり落ちた屋上に二人の姿を見つけると 手を振り駆け寄ってきた。間伐入れずに横殴りの雨がばらばらと彼の頬を打ち、黒髪の良く日に焼けた青年は 苦笑しながら顔をしかめる。嵐の夜だ。夏の終わりのぬるい風と大粒の雨がコンクリートの上でさざ波をつくっている。嬉しそうに手を振り返したツナの脇に、まるで腑に落ちないといった様子で顔を歪める獄寺の姿を認め、昔とまったく変わることのない彼らの佇まいに 山本は笑みを深くした。
「・・しっかし、こんな夜に屋上とはな。しかも並中の、って」
煽られる風に声のボリュームを上げ、山本は快活に雨を笑い飛ばす。
「なつかしーな!」
「でしょう。久しぶり、山本。見ないうちにまた背が伸びた?」
「半年ぶりな。けどさすがにもう背は伸びねーよ」
吹き荒れる風に、二人の手が傘を放棄しているのを見て、山本もそれに倣った。ツナはかわんねぇな、と雨を含んでしっとりとした、夕立の野原のような髪をかきまぜる。柔らかなくせ毛の絡む頬を撫で、すらりと伸びた首筋に目を落としたところで、彼は少し口ごもった。
「・・や、でも―――すこし髪、伸びたか」
うん、と微笑むツナの脇から忌々しそうにその手を払った獄寺が、馴れ馴れしくさわんなと牽制しながら山本を睨む。
「十代目はお疲れなんだ。お前と違って山ほど仕事を抱えてらっしゃるんだぞ。野球ばっかやってりゃいいお前とは違げーんだよ」
バカが、と吐き捨てる獄寺を眩しそうに見やり、山本は思わず相好を崩す。
「獄寺も、久しぶり。お前はかわんねぇなぁ!」
ぎゅう。
と、予備動作なく山本はその細身の体を抱きしめた。
たっぷり3秒間。不意を突かれた獄寺は暴風の中、化石のように固まったが、すぐに驚いた自分に腹を立て、腕を振り回し山本を突き飛ばす。
「ば・・・っ!何しやがるんだテメェ!」
怒声が雨を縫って飛ぶ。まぁまぁ、と猫をなだめるように獄寺の肩を押さえるツナと、それにおとなしく従いながらも真っ赤になってこちらを睨みつける獄寺を眺め、幸せに表情を温めた山本は、ふと、泣きそうになっている自分に気付いた。
高校に進み、野球を生業と志した自分は、親友二人と歩む道を別にした。狭い町だが、通う学校が違うだけで顔を合わせる頻度はぐっと減る。いつも一人で、バットを振り抜いた夏の空に、そこにかかる真っ白な入道雲に、ツナと獄寺の姿を思い出しながら過ごしていた日々を思い返し、山本はゆがんだ唇に無理矢理弧を描かせた。
「・・まぁ、半年やそこらで何がかわるわけでもねぇけどな!」
言いながら、それでも少しずつ変わってゆく親友たちの様子に、すこし懐かしさを感じるようになった「三人一緒」の感覚に、山本は面映ゆく笑う。
ツナと獄寺、そして笹川や雲雀が、卒業と同時にイタリアへ渡ると知ったとき、山本は反射的に「俺も、」と切り出していた。そんな山本に優しく笑いかけながら、それはできない、と首を振ったのは、他でもない 目の前のちいさなボスだった。
“だって、山本はまだ 野球を諦めきれていないでしょう”
それはとても寒い日で、手の中に握り込んだ缶コーヒーの煙をふう、と吹き散らしながら、ツナが雪の降る空に向かってつぶやいた言葉を、今でも覚えている。
“ならきみは、残らなきゃならない。「こっち」に”
“血で濡れてしまっては、バットが握れなくなるからね。”
生まれつきの屈託のなさから、野球の伝統のある高校に たったひとり進んでも、彼の周りにはたくさんの友人がいた。けれど、きっと、こんな親友はきっとこの二人だけだと、山本は思う。こんな、出会っただけで胸が熱くなるような友達なんて、きっとほかにない。
だから、俺は嬉しーんだ。きっと。
こうしてなんでもないときに呼び出してもらえること。まだお前らとこうやって繋がってられんだってこと。
*
ごぉ、と風が逆巻き、屋上のフェンスを越して三人の体を叩きつける。街からこの高台へと吹きつける、昼の名残をはらんだ、人の営みのにおいのする風だ。雨が体中をなぐり、濡らして産毛を波立たせた。あまりの強風と肌を刺すような雨に、一瞬口をつぐんだ後、皆、目を丸くした顔を見合わせて思わず噴き出す。
「なー・・んだよ、コレ!全然声聞こえねぇし!」
「だって台風だもの!でっかいのが来てるんだって!」
「そーんなときにツナ、なんだって屋上かなぁ!!」
気の抜けた顔で、山本が整った眉を跳ね上げた。短く刈り込んだ黒髪が、嵐に吹き飛ばされ、千切れんばかりに暴れている。風にあおられ、よろめきながら それがなぜだか可笑しくてツナは大声で笑った。慌ててその背に腕をまわした獄寺も、足元を危うく風にさらわれそうになる。
「うるっせぇぞ山本!十代目に意見すんなッ」
「だぁって俺らさ、なんかバカみてぇ!」
「んだとォ!?」
耳元をびょお、びょおおと駆け抜けてゆく横殴りの雨に聴覚を奪われ、自然にボリュームの上がってゆく声は 怒鳴り声に近くなる。腹の下に力を込め、校舎には誰も人がいないのをいいことに思うさま叫び散らす。怒っていた獄寺も、なんだかこの状況がおかしくなってきて、がなり立てる口の端が笑みの形になっていた。
少し頭のねじが飛んだ、嵐の夜。そんなふたりの腕をぐいと掴んだツナが、体をすり寄せるようにして笑う。
「―――そうだよね!」
コンクリートの地面を滑る雨粒が、非常口の小さな照明でぴかぴか光っていた。うすい汗のにおい。風でふらつく体を三人で固めるように、ツナは二人を抱きしめる。
「俺ら、ほんとバカみたい!」
*
雨の散弾を縫うようにして響く 軽やかな笑い声と、すぐ胸の脇で楽しそうに叫ぶツナの顔を見て、獄寺はそういえば久しぶりにこの人がこうして笑うのを見た、と思った。
この方を支えて、まっすぐ前を向いてだけいてもらえるように道を整えるのが、俺の役目だろうが。
この、人よりずっと背負い込むものの多い細身の青年が 笑顔を無くすことのないように。守るのが、俺の役目だろうが。
イタリア語にしてもそうだ。渡伊まで間がないというのに、ツナはなかなか語学の勉強を進めようとしない。いっそ頑ななほどだ。恐らく、色々な躊躇が彼の足に絡みつき、歩みを鈍くしているのだとは分かる。だが、元々の人当たりの良さに加えて、彼は耳がよい。語学をマスターすればかなりの強みになるに違いないのに、と獄寺は残念でならない。
イタリアへ渡ってすぐ、ツナを待ち受けているのは華々しい社交界デビューだ。しかし、元来血を重んじる国、混血でさえ入ることの許されないマフィアの、しかも首領がジャッポーネの血を色濃く引くことを、果たして皆が易々と受け入れるだろうか。
ハナから甘い顔見せは期待していない。ただ、
(・・・守りきれるだろうか、俺に・・)
―――ふとしたときに、獄寺は思うのだ。
命をかけて守るつもりでいる。最後の一瞬まで彼に仕え続けるのが自分の幸せだ。けれど、そこまでしてもなお、自分の手から零れおちるほどの使命を背負った彼を守りきることができるのか。考えるたびに、そんなおろかなことを、弱気になるな、と振り払いつつも、捨てきれない不安があることに獄寺は焦りを覚える。
そんなとき、こいつが傍にいてくれたら。
獄寺は、頬の横で濡れる真っ黒な髪を茫洋と見やる。野球の道を本格的に進み始めた山本は、最近更に骨格がしっかりと組みあがってきた。黒い瞳は、昔と変わらずまっすぐ前を射抜いている。こいつのことは大嫌いだが、過小評価はしねぇ。ふたりなら、きっと、世界中の人間を敵に回したって愛する十代目を守りきることができるのに。
・・こうしてずっと、三人でいられたら。
うるさいくらいに波打っている自分の鼓動も、この嵐の中ではきっとわからないだろう。獄寺は気付かれないように、そっと 二人に腕を回す。だいじに、ゆっくりと。濡れそぼった手の下で、人の肌の熱さがじんわりと沁みた。
「そういやさ、俺差し入れ持ってきたんだった!親父が持ってけってさ!」
突然響いた山本の 素っ頓狂な大声に、獄寺が眉を跳ね上げる。生粋の板前である彼の父親の姿が、目に浮かんだ。
「―――はァ!?まさか、寿司かよ!?」
「や、さすがにそれはな!・・コレだよ、コレ!!」
先程から風にびりびりと震えていた手元のビニール袋を探り、山本は派手な色のかたまりを取り出した。降りかかる雨に目を細めた獄寺が、絶句する。
「―――いや、これも大概だろ・・」
「やっぱな!獄寺もそう思った?」
「・・・え?チューハイじゃん!?これ」
首を伸ばして覗き込んだツナが盛大に噴き出した。また荒くなった風が校舎を吹き上げ、三人は思い思いの叫び声を上げながらお互いにしがみ付く。
「山本のお父さん、話わかるなー!」
「や・・・ですけど、この台風の中で酒盛りっスか!?」
ありぇねェ!おかしいし!と叫ぶ獄寺の顔は笑っている。手の中でちぎれそうな袋を抱え直し、山本もげらげらと笑いながら、どろどろに濡れた缶を二人に押しつけた。
「ま、いいじゃん!楽しけりゃなんでもいーのな!」
開けろ開けろ!と促され、雨ですべる指でプルトップを引く。生ぬるい夏の嵐が首筋をなで、シャツの裾を、ジーンズの足をひたひたに濡らしてゆく。恐らくパンツまでどっぷり雨に使っているだろうな。雨と体との境界がわからなくなってゆくような有様に、もうどうにでもなれ、とツナは派手な色のアルミ缶を一気にあおった。
やわい桃の甘みが喉をくすぐり、炭酸と共にするりと体に落ちる。ジュースと違うのは、甘い液体の撫でた喉が、腹が、ぼうっと熱くなることくらいだ。吐いた溜息が熱いことに何となく満足しながらツナが笑むと、目を丸くした二人がやんやとはやし立てた。
「マジかよツナ!?一気かよ!やるな!」
「さすがです十代目!オレもまけちゃいらんねぇっス!」
後に続き、競うように缶を干す二人を見て、ツナはあはは、と笑った。あげた笑い声も、風と雨にさらわれてしまう。突然、ひときわ強い竜巻のような雨が吹きあげ、お互いにしがみ付く手の力が強くなる。
アルミ缶の、甘い果実のにおいが鼻にひろがった。
合わさる肌の温み。
さざ波のように広がる、誰のものとも知れない笑い声。
火照る体で抱き合いながら、熱い二人の腕越しに、ツナは夏の夜空を見上げた。
分厚い雲が天幕の様にかかり、何トンもの雨を持て余して、重く垂れさがっている。真っ暗なはずなのに、黒色の複雑な陰影を刷いて、幾重にも空が折り重なるのが見えた。
*
どこにも行きたくないんだ。風に抗いながら、ツナは思う。ほんとは、ずっとこうしてたいんだ。三人で、ずっと。
すべて分かったふりして、自分の血に流れる運命を受け入れたけれど、本当は何一つ納得できてない。どうして平凡な大学生になってはいけないの?どうしてずっと、皆でいることはできないんだ?サラリーマンになって、かわいいお嫁さんを貰って。小さな家庭を築いて、そうして親孝行して死んでいくものだとばかり思っていた自分の人生。どんなときも、傍にいて、一緒にこうして笑いあって生きてゆくはずだった、無二の親友。
――けれど、そんなことは本当は許されていないこともまた、わかりすぎるほどわかっている。ツナは吹き荒れる嵐の向こうに、海の果てで自分を待っているであろう ちいさな背中を思い描いた。
自分に「普通の高校生活」という最後の贈り物をくれた、あのボルサリーノの子供。乱暴だけれど、漆黒の瞳にいつも淋しさをたたえているのを知っている。彼が悪態をつきながらも、必死で守ってくれたこの3年間を、きっと死にそうな思いをして、自分の空けたファミリーの穴を補ってくれている彼の背中をまた、ツナは片時も忘れることができないのだった。
自分の周りにいる人たちは不器用に優しすぎるから。そんな人たちを切り捨てることなんてできないから、余計にたちが悪いのだった。
イタリアにも、台風ってあるのかな。
ツナは目の前にかぶさる髪を払いのけながら、ぼんやりと思う。
右側に、風に舞う美しい銀髪。左側に、黒いまっすぐな瞳。
ツナは感慨深く、二人の顔を見上げた。自分の背にしっかり回された2本の腕は、この台風なんかにびくとも揺れず、じわりと背中に熱を与え続けている。無条件に安心できるその掌に、急に涙腺が緩み、ツナは慌てて空を仰いだ。叩きつける雨が、涙ごと 鼻先に上った熱を攫ってゆく。
さいごだ。きっと。
涙の呑みこまれてゆく空は、もう夏の色をしていない。嵐を重ねながら、少しずつ秋の空気に塗り替わってゆくのだ。
こうして過ごせる夏も、きっとこれで終わり。次の季節からは、俺の左側からこの腕がなくなる。
獄寺君はずっと一緒にいてくれるだろうけれど、それでも、もうこうして、おなじ気持ちで、まっさらなただのガキとして笑い合うことなんてできない。
上手く言葉にできない思いは、もどかしくツナを焦れさせた。それでも肌で感じる別れの気配に、自然と目頭が熱くなる。
いつか、またみんなで出会うこともあるだろう。けれど、きっと変わらないことなんて、ない。
だからこれが、きっとさよならだ。
雨をやり過ごすふりをして目を瞬かせ、ツナは真っ黒に湿る空の彼方を見つめ続けた。
ふいにひとつ、輝くものが目を射る。きっとそれはネオンに反射したちいさな雨粒だ。けれど
「―――――あ!あれ!」
震える声を隠すように、ツナは腹の底から声を絞り出した。
「・・ちょっと!あれ見てよ!UFOだよ!UFO!」
空の一点を指差し、急に叫びだしたボスに、真っ先に反応した獄寺が目を輝かせる。
「え!?マジすか!UFOっ?」
不可思議なことが大好きな右腕は、フェンスから身を乗り出して空を食い入るように見つめる。
「どこどこ?」
「ほら、あれだよ!光ってる!」
「どこだぁ?ツナ?」
「あれだって、ほら!」
「えー!?見えねぇよー!」
山本も長身を折り曲げて、屋上の柱に捕まるようにしながら街の方を見遣る。きらきら、雨に滲む並盛の町に、うねる空。吹き荒れる風に雲が飛ばされて、大粒の雨が零れ落ちている。目を開け続けていることすら困難だ。
「どこっスか!?」
「見えねぇ」
「ほら、あそこだよ!」
空の一点を指差しながら、ツナは泣きだしそうになる。そこにはなんにもなかった。
―――見えるわけないよ、嘘だもん。
けれど、ツナは叫び続けた。UFOだよきっとそうだ、アダムスキーってやつじゃないかな、あれ!
「―――あ!ひょっとしてアレっすか!?」
獄寺が、ツナの後ろから大声を上げる。目を何度も瞬かせた彼の指さした先には、真っ暗な空。光なんてどこにも見えやしない。ツナは思わず、唇を震わせた。すぐにもう片方の長身を振り仰ぐ。
「ねぇ、山本は!?見えた?」
「いやー・・みえねーのな」
どこだぁ?と、生真面目な青年はフェンスに指をからめ、うんうんうなり始める。
「あるだろ・・ほら・・!」
「えぇ~?」
フェンスに押しつけた身体があつい。熱いのに、震えが止まらなかった。心臓が胸を打ちつけて痛い。からだの中に、嵐が逆巻いているみたいだった。祈るような気持ちで、ツナは金網から腕を伸ばす。ほら、あれ!あそこだよ!
「――――あ!ひょっとして、あれなのな!」
ツナの肩を抱くようにして腰をかがめた山本が叫んだ。目線を合わせた位置から、うわずった笑い声。距離の近づいた位置で揺れる二人の髪が、両方の頬にくすぐったい。
―――なぁ、なんかさ。
こんな言い方、しちゃいけないんだけど。
俺たち、別の世界で出会いたかったなぁ。
マフィアとか、世界を救うとか。そんなのは本の中の出来事で。だれかほかのヒーローが、さらりと世界をひっくり返してくれるのを、例えばコンビニなんかの雑誌で立ち読みして それでみんなでファミレスで飯食って、あいつ格好よかったよなぁ、なんて言ってさ。
相変わらずつまんない大学の講義のはなししたり、週末のコンパや旅行の話で盛り上がってさ。現実なんてこんなもんだよって。じゃ、また明日な、って別れて。
そういう世界で、俺たち、出会いたかったなぁ。
フェンスにしがみ付いて、ツナはぐいと顔を上げた。
「―――――――おおおおぉーーーーーーいっ!!!」
嵐の逆巻く空に向かって、声を張り上げる。
「おおおおーーーい!!」
気付いて。こっちだ。
サインを送る遭難者のように、大きく手を伸ばして頭の横で振り回す。横殴りの風に傾いだ身体を、とっさに両脇から二人が抱きとめた。
「ちょ・・・ツナ?」
「十代目っ!そんな大声出したら、UFOのやつに気付かれますよっ!?」
「おおおおおーーーい!!!」
焦る二人を置いて、ツナは叫び続けた。見えない飛行物体に渾身の力で手を振り続ける。
なぁ、俺たちをこのまま、誰も知らない所まで連れてってくれないかなぁ。
何もかもリセットして、まっさらになって。そうしてまた、出会うところから始めようよ。
いじめられっ子の俺に、二人は気付くかな。でも今度はもう、躊躇したりしないから。
涙をあふれさせながら、ツナはみえないUFOに向かって腕を振り上げる。風の中、獄寺と山本が笑う気配がした。
「おおおおおおーーーーい!!」
「うぉーーーい、UFO!こっちだぞーーー!!」
「畜生!来るならきやがれってんだ!!」
雨の隙間から、この声が届くといいな。
どこか遠く、誰も知らない所へ
俺たちを連れて行っておくれ。
UFO、こないかなぁ。
Mr.children 「UFO」より。大好きな曲です。
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