俺は寝ようとしていたんだ。
この小さな部屋を暖めてくれていた、ちっぽけなストーブの火を落として。
そしたら、あの人が来たんだ。
いつもみたいに、やっぱり窓から。
冷え切った夜気と、どこにも傷なんてないくせに、ほんの少しだけ血の臭いを纏わせて。
静かに、静かに 窓を叩いたんだ。
「ごめんなさい。イルカセンセ」
少し困ったような、照れたような。それでいてすごく寂しそうな顔で、ちょっと 笑う。
「一人ではおれなくて。すみません。」
あぁ
上がり込むなり、こんなに正体を失って 倒れるように寝込んでしまうなんて。
そんなら、こんな何もない俺んちになんて わざわざ来なきゃいいのに。
でも、この人の 強いこの人の
里一番の上忍で、怖いものなんて何も無いだろうこの人を
ここまで弱気に、不安にさせたものは 一体何だったんだろう、と
一体どんな過激な戦いが、この人をここまで疲弊させたのだろう、と
頼りない俺の肩に凭れかかって眠る彼の顔を見ながら 考えを巡らさずには おれなくて。
そうして、俺はまた 眠れない夜を過ごす。
消えそこねた小さいストーブが、小さく小さく 命の灯りをともしている。
ロマンチックストーブ