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スパイシーな彼氏。





「ふっ、ふ、ふ、ふ、ふ」



 その日、配達業者から小包を受け取った虎徹は不敵な笑みを浮かべて拳を握った。


「覚悟しろよ、バニーちゃんっ。リベンジだ!!」


 バディ相手に何とも不穏な台詞を吐いた虎徹は弾むような足取りでリビングへ戻る。

 作戦の決行は夕食後。

 それまでは、あの勘のいいウサギに悟られてはいけない。

 くっくっと抑えきれない笑みを気合で押し込んだ虎徹は、夕食の準備を再開させながら、数時間後の悪戯に思いをはせた。





 時は遡ること一週間前。

 ヒーロー仲間で食卓を囲んだ時のことだった。

「あれ、タイガー。今日はマヨネーズつけないの?」

 こてんと首をかしげてホァンが尋ねる。

 今、まさに取り分けたサラダにドレッシングを掛けようとしていた虎徹はひくりと口元を引きつらせた。

 ホァンに悪意がないことは分かっている。ただ純粋に疑問に思ったことを口に出しただけだろう。

 現にホァンの一言で気づいた他の面々も、興味深そうに虎徹の方を見ていた。

 虎徹のマヨネーズ好きはヒーロー全員が知ることである。

 虎徹自身、常々豪語していた。

 マヨネーズは万能にして偉大なる調味料だと。

 だがだ。

 ぼわんと脳裏に浮かんだのは先日、バスルームでバーナビーにいたされたアレコレ。

 楓の為にと買ってきた本物そっくりのマヨネーズ型バスソープとフランクフルト型のスポンジで体中を泡まみれにしてそのまま美味しく頂かれてしまったのだ。

 その時の情事を思い出した虎徹の顔がみるみる赤く染まる。

「どうしたの?」

 固まって押し黙ったまま顔を赤くする虎徹に心配そうに尋ねるカリーナに、代わりに答えたのはバーナビーだった。

「虎徹さん、少し風邪気味なんですよね。食事が終わったら今日は無理せずに早めに寝た方が良いですよ」

 虎徹がマヨネーズを見る度に複雑そうな顔で顔を赤くする原因を作った張本人は、いけしゃあしゃあとのたまうと、「ね?」と目で同意を求めてきた。

 虎徹はギリっと奥歯を噛みしめる。

 癪だ。

 だが、悔しいことにこの場はバーナビーの機転に乗るしかなかった。

「そうなんだよー。ちょっと、風邪引いちまってな。味覚が鈍ってるから偶にはドレッシングもいーかなーと」

「ちょっと、大丈夫なの?」

「ワイルド君、無理をしてはいけないよ。安静が一番だ」

「タイガー、ごめんね、僕知らないでご飯に誘ったりして」

 仲間達の気遣いにほっこり胸を温めつつ、抱いた罪悪感は半端ない。

「大丈夫、大丈夫。すぐに治るから!」

 虎徹はテーブルクロスに隠れて見えないことをいいことに、バーナビーの足を思いっきり蹴飛ばし復讐を誓うのだった。






 INバスルーム


「で? その手の中の物はなんですか?」

「ん? 見てわかんねぇ? チリソースだよ」

「僕が聞きたいのは、今何故この状況であなたがそんな物を持ち出すかと言うことです」

 二人で夕食をとったあと、バーナビーを風呂へと追い立てた虎徹はキッチンの棚に隠しておいた小瓶を取り出してバスルームに乱入したのだった。

 唐辛子のイラストとともに「SPICY CHILI PEPPER」とラベルに描かれた小瓶を手に、にたりと虎徹は笑う。

 どぎつい赤色の液体で満たされた瓶をたぷんとバーナビーの前で振ってみせる。

「バニーちゃん、辛いの好きだろ? わざわざ通販で取り寄せたんだぜ。だからな、」



 おもむろに瓶の蓋をとり、

「ちょっと、冗談でしょう!?」

「たっぷりと味わって貰おうと思って!!」

 バーナビー目がけて虎徹は瓶の中身を勢いよく浴びせかけた。

「つっ!!」

 反射的に顔を逸らしたバーナビーの胸元から下半身が真っ赤な液体にまみれる。

 たらたらと肌の上を滑る液体と匂いにやがてバーナビーを恐る恐るというように指先ですくい取る。

「これ……」

「やーい、引っかかった! ビックリした、バニーちゃん!?」

 呆然とするバーナビーの顔を覗き込んで虎徹はにかっと笑った。

「チリソース! にそっくりなバスソープでした!! いやぁ、さっきのバニーちゃんのビックリ顔! カメラで撮っておきたかったなぁ」

 この前のお返しだと笑う虎徹にバーナビーはパチパチと瞬きを繰り返す。

 ようやく現状を理解したバーナビーは不意に唇を吊り上げた。

「……本当に、驚きました。この前のといい、よくこんなモノ見つけてきましたね。パッケージも本物そっくりだ」

「だろ、だろ!」

 思わぬバーナビーの反応に気をよくした虎徹は、他にもいろいろあるんだよーと嬉しそうに笑う。

 その唇に指を這わせてバーナビーはにっこりとそれは綺麗に微笑んだ。

「それじゃあ、責任もって僕のフランクフルト食べて下さいね?」

 バーナビーの片手はしっかりと自分の下半身を指差している。

「へ?」

「食べ物は粗末にしてはいけないと、娘さんにも教えているんですよね? それにしても虎徹さんがチリソース派だとは思いませんでした。てっきり、何にでもマヨネーズをかけるからフランクフルトもそうなのかと。だから、この間はあんなに抵抗したんですね。すみませんでした、気が回らなくて」

「いや、あの、バニーちゃん? バニーちゃーん?」

「たっぷりチリソースがかかっているから、今日はすぐにでも食べられますよね?」

「や、ちょっと、バニーちゃん…話を聞いて…」

「―――この下のお口で」

「―――!?」

 するりと腰を撫でた手に虎徹は全身を震わせた。

 にっこりと笑った変態イケメンに、迷わず反転ダッシュを決めようとした虎徹はタイルに滑ってバスルームのドアにしがみつく。

 ホッとするのもつかの間、その格好が図らずしも背後のバーナビーに尻を突き出す状態になると気づいたときには、既に遅し。





 その夜、シュテルンビルトの一角で、虎徹の絶叫と楽しそうなバーナビーの鼻歌が聴こえたとか。





 本日の教訓:悪戯は相手を選んでやりましょう。


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10月イベントで無配したペーパーでした☆
お風呂グッズネタで、小説(蓮さん)+まんが(ハチ。)の小冊子ペーパー(・ω・)

もちろん、マヨソープもチリソースソープも実在しますv

調べると面白いのがいっぱいあるので、しばらくはペーパーはお風呂ネタで攻めよう!って意気込んでます。そんな第一弾目!