ゆさゆさと身体を揺さぶられる感覚に、つっと意識が浮上する。
眉間に皺を寄せながらも何とか目を開けた虎徹は、「んっ」と呻きながら顔をあげた。

「バニー…ちゃん?」

「やっと起きましたか。地下で待っていても来ないから何かあったんじゃないかって心配したんですよ」

傍らに腕を組んで見下ろすバーナビーの顔をぼんやりと見つめる。目を瞑ってまぶたの上から強く押した後のような焦点の合わない感じから、少しずつ、眼前の現実を脳が認識し始める。

赤のライダースジャケットにワークパンツ。
白皙という表現がぴったりな端正な容貌。
一部の隙もなく髪を整えたいつも通りのバディの姿に虎徹は顔を顰めた。

頭の奥が泥を詰め込まれたかのように重い。
付きまとう不快感に額を押さえて机に肘をつき、目を閉じる。

「虎徹さん?」

顔をのぞきこまれる気配に、虎徹は「あー」と頭を振った。

「俺、寝てた?」
「僕が来た時には」
「そっかー」

自分はどうやら会社のデスクに突っ伏して寝ていたらしい。
それにしては、睡眠に付きものの爽快感というものがまるでない。
いつから寝ていたのか定かではないが、全身が凝り固まって関節は痛いし、頭はどんよりと重い。
立ち上がることさえ億劫でうーうー唸りながら座り込んだまま動こうしない虎徹に、バーナビーは眉を顰める。

「斎藤さんを待たせているんですが、行けますか?」
「斎藤さん?」
「ええ。約束していたでしょう。十五時にラボに来るようにと。覚えてないんですか?」
「約束…約束したっけ…?」

そもそも今日は何日だ?
何もかも曖昧で考えるそばから四散していく思考は一ヶ所に留まってくれない。
先ほどからバーナビーの質問にも鸚鵡返しに答えるばかりだ。

「大丈夫ですか?」

いつもより反応が鈍い虎徹にバーナビーの声から怒りの色が消え純粋に心配する様子だけが残る。
虎徹は力なく笑い、曇り顔のバディの肩に手を伸ばし掴まりながら腰を上げた。
体重をかけられてもバーナビーは文句を言うどころか肩を貸すように身を屈めてくれた。

正直このまま座っていたいというのが本音だが、多忙なバーナビーが直々に呼びに来たのだ。
覚えてはいないが、それなりに大事な約束だったのだろう。
時間が経つにつれ薄れていく倦怠感に安堵しながら連れだって地下に向かう。

「ところで、斎藤さんの用って何だっけ?」
「本当に忘れているんですね」

呆れるバーナビーの視線から逃れるようにハンチング帽を目深に被り直す。
はぁと聞こえるように吐かれた溜息に肩を竦めると、バーナビーは渋々ながら説明してくれた。

「H‐01の処置が終わったから、一度見て欲しいと頼まれていたでしょう」
「そうだっけ?」
「そうですよ」

マーベリックが引き起こした事件の後、アンドロイドは全て回収され廃棄処理された。だが、偽ワイルドタイガーことH‐01だけは秘密裏に回収され、アポロンメディアを始めとする七大企業の技術者たちによりデータベースの解析が行われたらしい。

へぇと相槌を打ちながらも釈然としない思いを抱え、メカニック室のドアを開けた虎徹は―――目を見開いたまま、思わず立ち尽くした。



「え―――…!?」

痛むこめかみをさすっていた指が、ずるり、と滑り落ちる。

「ち… ちちち、ちょっ…と!?―――え…?――――――ええぇぇぇぇぇ!?」


椅子にちょこんと腰掛けた斎藤の横に立つのは「鏑木・T・虎徹」。
正確には赤いシャツに黒いベストと色違いの服を身につけた自分そっくりの「何か」だった。


「―――びびび、びっくりした~、も、もしかして、これ…『H‐01』ですかァ?」

「(どうだい、驚いただろう)」

キヒっと斎藤が小さな声で自慢げに笑う。
自分と瓜二つに作り直された存在に恐る恐る近づき、顔を覗き込むと伏せた赤眼に硬質な光が宿る。
「うぉっ、生きて、る……?」

虎徹は思わず仰け反った。
無機物であるアンドロイドに対して適切な表現ではないが、他に上手い言い方が見つからない。

「触ってもいいですか?」

斎藤の許可をもらい、虎徹は赤眼の僅かに自分より浅黒い肌をした「自分」に興味津々に手を伸ばした。
頬に触れるとちゃんと温かい。
弾力のある肌の感触に男性特有の角張った骨格と筋肉の質感。
肩を叩いたり、髪を梳いたりと一通り満足するまでぺたぺた触りまくった虎徹は知らず息を吐いた。

驚くことに、生きた人間の質感と何ら変わりがないのだ。
自分自身を客観的に触ったらこんな感じになるんだろうかと、自分の体と触り比べながら虎徹はH‐01の顔をしげしげと興味深げに見つめた。

自分と同じ顔じゃなければ、まず生きている人間と見間違えるような出来映えだ。
機械特有の不自然さがまるでない。瞬きもするし、瞳孔はきちんと目の前の虎徹の動きを補足し、追いかけるように動いた。

凝ったことに呼吸まで再現しているのか、微妙な胸の上下運動まである。口元に手を翳せば吐息まで感じられた。
ただ、どれだけ虎徹に触られても近づかれても表情一つ変えないところが人ではないことを雄弁に物語る。


「どうして虎徹さんの外見をしているんですか?」

それまで静観していたバーナビーが口を開く。
その声にも表情にも苛立ちが滲んでいて虎徹は首を傾げた。

「(H‐01の個体データはタイガーを元にしているから、一番都合が良かったんだよ。タイガーのパーソナルデータは豊富に揃っていたからね)」

偽ワイルドタイガーの姿はHERO TVによって全国放映されている。剝き身のアンドロイド姿のままではこの先表に出すのに都合が悪いという斎藤の言い分は理解できるものだった。

「…だからといって顔まで似せる必要はないでしょう!」

吐き捨てるようなバーナビーの口調にんん、と首を捻りながら虎徹はH‐01の傍を離れてバーナビーの元へ向かう。

「バニーちゃんは反対?」
「当然です。…虎徹さんは気持ち悪くないんですか?」

虎徹は、思わずぱちぱちと瞬く。H‐01とバーナビーを見比べて、

「別に?…面白いなあとは思ったけど」

―――正直な感想だった。もう少し若い時分だったら自分と瓜二つの実寸代フィギュアなんて悪趣味以外の何物でもないと忌避しただろうが(それか自意識過剰の勘違い野郎か)、この年になるとただ感心するだけだ。
と、突然、声の小さなメカニックは二人の顔を覗き込むと、うすい唇をもごもごと歪めてにぃ、と笑った。

「(ここからが本題なんだが、君たち、暫くこのH‐01と暮らして見る気はないかい?)」



「―――は?」


投下されたのは予想外の―――青天の、霹靂。

びしり、と音を立てるほどに固まったバーナビーと、目を丸くした虎徹の声がきれいにハモる。

「(改良を重ねた暁には、H‐01を戦闘用ではなく家庭用アンドロイドとして普及させたいと思っているんだよ。それこそ開発者であるブルックス夫妻の意思に基づいてね。H‐01には既に一般常識がブログラミングされている。AIによる学習機能もついているから、データと経験が蓄積されればより人間に近い行動を取るようになるだろう。けれど、情操面については実際に人との触れ合いの中で学ぶのが一番だ)」

「はぁ」

「(簡単に言えば、君たちにH‐01の感情を育てて欲しいと言っているんだよ)」

「ええぇ!」


驚く虎徹に対しバーナビーは至極冷静だった。

「その後、これの処理はどうするんですか?」

あくまで物扱いするバーナビーはH‐01を指差して尋ねる。

「この外見に感情まで備え付けたアンドロイドを人目に晒すのは反対です。協力は出来ません」

虎徹の外見をしたアンドロイドが見知らぬ技術者の手によって好き勝手されるなど我慢できないと、提案を一蹴するバーナビーに斎藤は首を振った。

「(ICチップのコピーを提供してくれれば、ボディは返却しないでも構わないよ)」

家事は万能だからそのままハウスメイドとしてでも使用するといいと言う斎藤の言葉に二人は顔を見合わせる。


「俺、やります!!」
「おじさん!」

しゅたっと手を上げた虎徹にバーナビーがすかさず噛みつくが、虎徹はいいじゃんと口を尖らせてH‐01の肩に腕を絡めた。何故だか嬉しそうな、面白いおもちゃを見つけた子供のような仕草に、思わずバーナビーの眉間に皺が寄る。

「そういえばこいつ名前はなんて言うんですか? え、決まってない? 流石にH‐01じゃなんだし、んー、あっホイっていうのは?」

単純に数字をアルファベッドに置き換えたネーミングにバーナビーが冷たい眼差しを向ける。

「却下です」
「ええー、じゃあ、バニーちゃん、他に何か案があるの?」
「それよりも、――少しいいですか」

虎徹の問いをあっさり受け流したバーナビーは隣のモニタリングルームに斎藤を誘う。
虎徹はH‐01と腕を組んだまま、不機嫌なバディを見送り自分とそっくりなアンドロイドに向き直った。


「なぁ、笑ってみ?」







こちらの音声は聞こえないことを承知でバーナビーは声を落とした。

「何を隠しているんです?」

「(決めつけているね)」

「おじさんほど単純ではないので。利益と不利益を顧みた結果です。どう考えても僕らにあれを預けるメリットがありません。情操教育というのなら、適格者は幾らでも居るはずです。それこそ専門家にでも任せればいい」

監視カメラのモニターを見る限り、今はまだ不穏な様子はない。
H‐01は無表情のまま、一方的にまくしたる虎徹の言葉を受け入れているようだ。
けれど、バーナビーの視線の厳しさは変わらない。

「まだ、話していないことがありますよね」

それは疑問でなく確認だ。

「本当に人格プログラムはクリーニングできたんですか?」

瞬きはしてもH‐01の表情筋はぴくりとも動かない。オリジナルと並んでいるから、余計にそのちぐはぐさが顕著に見える。
虎徹なら、絶対にしないその表情。
唾棄すべき、その偽物に対してバーナビーの印象は最初から最悪だった。
一時とはいえ、あの偽物を大切な人と思わされていたという憤りが、心を支配する。

「(正直に言うとある部分にプロテクトがかかっていて全てを解析できたわけじゃないんだ。無理にプロテクトを攻略しようとするとシステム全てが強制終了する仕組みになっていて手が出せないんだ。そのことも含めて様子を見てほしいんだよ。勿論、保険は掛けてある。武装はすべて解除したし、身体能力もワイルドタイガーに準じるところまで落としてある。例え暴走したとしても、二人がかりなら抑え込めるだろう?)」

斎藤の言い分にバーナビーは額を押さえて首を振った。

「最初から事が起こるのを前提にしているじゃないですか」

「(君の御両親が残した財産でもあるからいい意味で残してあげたいと思ったんだよ。だがロトワングが密かにプログラムを組み込んだ可能性も考えられる。何もなければそれでいい。ただ、万が一のことを考えてしばらく様子を見てみようと思ってね)」


危険があればその場で廃棄処分にすると言われてバーナビーは唇をかむ。


「……それならひとつ、条件があります」



斎藤に条件を飲ませることに成功したバーナビーは壁にもたれかかってこめかみを揉んだ。
いつ作動するか分からない隠しプログラムが施されている存在とこれから四六時中、行動を共にしなくてはならないなど、苦行以外の何物でもない。
けれどH‐01に向ける虎徹の態度を見てしまえば、今更廃棄処分にすると言っても納得しないだろう。

(まったく。あの人はなんでも簡単に受け入れてしまうんだから)

溜息とともに、ふとモニターを見る。
H‐01の赤い双眸と眼が合った。
無機質な硝子玉のような眼が、確かにバーナビーを捉える。

そしてゆっくりと、――それは嗤った。


「Shit!」


めったに使わないスラングが口をつく。

バーナビーはモニター室を飛び出ると虎徹の元に駆け寄りH‐01から引き剝がした。

「バニーちゃん?」

青い光を纏うバディに虎徹は眼を丸くする。

「どったの、能力なんて発動して」

虎徹とH‐01の間に割って入ったバーナビーは威嚇するようにH‐01を見据えたまま虎徹を背に庇う。

「今、わらいました」

「ああ、ちょうど笑う練習をしていたんだよ。なんだよ、ええー、今笑ったの? 俺見逃したよ。な、クロ、もう一回笑ってみ?」
「クロ?」
「そう。こいつの名前。いつまでもH‐01なんて呼ぶわけにもいかないし、さっき二人でつけたんだよ。クロガネだから、クロ。な?」
「ああ」

虎徹より幾分低い声が返答する。
感情をみせない、淡白な音質だった。

「な、クロ、もう一回笑えって」

しつこくせがむ虎徹にクロガネと名付けられたアンドロイドは眼を細めゆっくりと唇に弧を描く。
たどたどしいながらもその表情は確かに微笑んでいるように見えた。

「ん! 上出来だ」

わしわしと虎徹がクロガネの髪をかき回す。
髪型を乱されても文句を言うこともなく、「コレでイイのカ?」とまた元の無表情に戻ったクロガネが虎徹に確認する。

「そうそう。これが『笑う』な。嬉しいことがあったり、感謝することがあったら『笑う』んだ。そうすれば大抵上手くいくから!」

親指を立てて、クロガネの肩を叩きながら熱弁する虎徹にこくりと頷いたそれはバーナビーに向かって手を差し伸べた。

「何です?」

戦闘態勢を解かないまま、バーナビーは眉を顰める。何も所持していない空手であっても警戒は緩めない。

「握手ダ。スルのだろう、初対面の相手にハ。―――違うのカ?」
「虎徹さんにはしませんでしたよね」

胡乱げに見つめると、クロガネは首を振った。

たった数分で嫌になるほど人間くさい動作を覚えたそれにぞわりと肌が粟立つ。

「虎徹はマスター、だ。よろしく、バニー」
「っ!? その名で呼ぶな!」
「違うのか? 虎徹はソウ呼んでイタ」

「お前にその名前で呼ばれる筋合いはない!」

切り捨てるように吐き捨てたバーナビーに、傍らで見ていた虎徹が慌てて間に入る。

「まー、まー、バニーちゃんもそんなケンカ腰になるなよ。俺の口癖を真似しただけで悪気なんてないんだしさ。クロはバーナビーって呼んでな」
「了解シタ」

俺とバニーも最初の頃はこんなんだったのかねと頭を掻く虎徹にバーナビーはぎりっと奥歯を噛みしめた。

悪気はない?

冗談じゃない。先程から虎徹に見えない角度でバーナビーを挑発するようにそれは不敵な、そう先程モニター越しに見せたあの邪悪な嗤いをちらちらと浮かべてみせるのだ。

「これから暫く一緒に暮らすことになるんだし。仲良くしろよ、二人とも」
「俺のマスターは虎徹だ。命令には従う」
「だーっ! そんな堅苦しく考えるなよ。もっと気楽にさ。それに仲良くしろって言うのは命令じゃなくて、要望!」

「無理でしょう。それにはロボット三原則が組み込まれているはずです。命令されたことが全てですよ」
「ロボット三原則?」
「第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条 ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。―――聞いたことはありませんか?」
「んー、何となく、知ってるかも?」
「とにかく、それに曖昧な判断基準を与えるのは止めた方がいいですよ。暴走したらどうするんですか」

バーナビーの纏う青い光が消える。
虎徹と合わせても六分間しか発動できないハンドレットパワーの能力とは違い、アンドロイドには制約がない。
斎藤は虎徹と同程度まで能力を引き下げたと言っていたが、万が一にでも隠しプログラムが発動したら、その保証も怪しいものだ。

「バニーちゃんは考えすぎだって」

バン、とバーナビーの背を叩きながらからりと虎徹は笑う。

「それで、オレはこれカラ何をすればイイ? 指示を」
「取り敢えず、俺たちの家に帰ろうか。後は追々考えればいいし。なぁ、いいだろう、バニー?」
「あなたという人は……」

額に手を当て、うんざりしたように溜息をつくバーナビーの横で虎徹は斎藤を呼び、家に連れ帰る旨を説明している。
こんな時ばかり行動が早いバディに眉を吊り上げながら、バーナビーは虎徹の肩を引き耳元に囁いた。

「油断しないで下さいね。元はあのH‐01なんですから。ロトワングのプログラムが完全に解かれたとまだ実証されたわけじゃないんです」

殺されそうになったことを忘れたのかと諌めるものの、虎徹は能天気に一蹴してくれた。

「気のせいじゃねぇか。こうしていても大人しいし。な、クロ?」

名を呼ばれたクロガネが小首を傾げる。

「んじゃ、行くか!」

クロガネの首に手を回し、引きずるようにして虎徹はラボを後にする。
虎徹の手によって乱れた襟足から、アンドロイドの首筋に小さなバーコードとロゴが刻まれているのが見えた。

その刻印を苦々しく睨み付けながら、


「確かに、忠告はしましたからね。おじさんに対する事で僕の勘が外れたことはないんです。―――痛い目を見るのは、あなたですよ?」



まるで予言のように呟かれたバディの言葉を、その時の虎徹は気にも留めなかった。




        †    †    †






「おっはよう~、バニーちゃん」

「おはようございます、虎徹さん」

「おはよう、バーナビー」

「……ああ」

「だーかーらー、挨拶なんだからちゃんとしろって。クロの手本にならないだろ!」


低血圧のバーナビーとは裏腹に、朝から無駄に元気な虎徹の説教にバーナビーは引き攣る口元を何とか堪えて、「おはよう、クロガネ」と返した。

「そうそう。挨拶は基本中の基本だからな。あ、バニーちゃん、もうちょっとで飯出来るから座って待っててな」

下手くそなウインクを決めてキッチンに戻った虎徹は上機嫌に鼻歌を歌いながらクロガネに指示を出して料理を作らせている。
一通りプログラムが組み込まれているという斎藤の言葉は正しく、クロガネは簡単な指示で的確に炊事・洗濯・掃除などをこなし、すっかりバーナビーと虎徹の家に馴染んでいた。
不規則に家を空けがちで最低限の家事しかしてこなかった二人の時よりも、不本意ながら、かつてないほど快適な居住空間が維持されている。

ラボで引き合わされてから半月。
今のところ、三人の共同生活は何事もなく平穏を維持している。
コツコツと行儀悪くテーブルの表面を爪先で叩きながらバーナビーはキッチンで楽しそうに動き回る二人を眺めた。


後ろ姿だけなら、見分けがつかないほどよく似ている。
クロガネを家に連れ帰った日の夜、虎徹は苛立つバーナビーに告げたものだ。


「クロは、おまえのご両親の形見みたいなもんだろ?」


虎徹の家族写真の隣に飾られた、両親と映る幼いバーナビーが収められた写真立てを手に取りながら虎徹が笑いかける。

労るようなその顔に違うと否定するのは簡単だった。けれど、それが純粋に虎徹の厚意であると知れたからバーナビーは唇を引き結んだまま沈黙を守ったのだ。

確かに虎徹の言う通り、あれは亡き両親が心血を注いだ研究結果の証とも言えよう。
セーフティーデバイスのパスワードからしてもそれは間違いない。
だからといって、あの存在が特別なものになるかと言ったら、それとこれとは別問題だ。
虎徹の考えは、いつでも的外れで空回りをしている。

元来、世話好きな人だ。

クロガネの面倒を見ることを、第二の子育てか何かと勘違いしている節がある。
一度懐に入れた身内にはとことん甘い人だ。

未だ虎徹の前では猫を被り続けているクロガネの本性にはまるで気づいていない。
あれが簡単に人に飼い慣らされるようなタマだろうか。否、獲物を前に虎視眈々と爪を研いで飛びかかるタイミングを計っている肉食獣そのものだ。

同類だから、分かる。

(アレはまだ、何かを隠している)


「面白いって言ったら不謹慎なんだろうけどさ、なんかみんなで食卓を囲むって家族みたいだよな」

テーブルの上に料理を並べながら虎徹は嬉しそうに笑った。
エネルギーにはならないが、飲食物を摂取しても支障がないクロガネも同席する。

「……そうですか?」

肉親に縁のないバーナビーには分からない感覚だ。誰かと日常的に食卓を囲むことも、虎徹と出会うまではあまり機会がなかった。

「そうだよ」

否定するのも馬鹿らしくなるほど、穏やかな光を宿した瞳で言い切られれば黙るしかない。

「虎徹直伝オリジナルチャーハン。な、味どうだ? 今日は最初からクロが作ったんだぜ」
「まぁ、……不味くはないです」
「もっとちゃんと褒めてやれって」

クロガネはレシピがあればその分量を0・1ミリグラムの誤差なく計量し、調理することが可能だが、毎回適当な材料で場当たり的な料理を作る虎徹の味を再現するには苦労したようだ。もっとも、作る度に少しずつ味が変わるところが家庭料理の醍醐味だと虎徹自身豪語しているのだが。

「良かったな、クロ。バニーちゃんも美味しいって」
「そうか」

それでも何でもない些細なことでクロガネを甘やかす虎徹には苛立ちが募っていく。

「ん。スプーンの持ち方も合ってるな。つうか、最初から食事のマナーがインプットされてるとか、ずりぃよな。俺なんていまだにコース料理でずらりと食器が並んでいると焦るのにさ」

教本通りに、洗練された仕草で食事をするクロガネとは対称的に、かちゃかちゃと派手に音を立てながら食べる虎徹だが、何故かそれが不快に見えないところが不思議だ。
恋人としての欲目をなくしても、何でも美味しそうに食べる虎徹は見ていて微笑ましい気分になる。
今も頬にご飯粒をつけたまま大口を開ける虎徹に苦笑しながら伸ばされたバーナビーの手は、だが宙で止まった。

斜向かいに座るクロガネの赤い眼が意味深に細められる。

含みをもったその眼差しの意味を問う間もなく、スプーンを置いたクロガネが虎徹の顎をとり、赤い舌を見せつけるように突き出して口の端を舐めた。

べろり、と。


「なっ!」

流石に慌てた虎徹が舐められた辺りを手で押さえて声を上げる。

「何すんだ!?」

「取っただけだ」
「取った? ああ、食べかすがついていたのか。つか、口で言えよな。ビックリしたじゃねぇか」
「すまない。テレビの真似をシタが、間違っていたカ?」

無表情のまま告げるクロガネに、虎徹はうーあーと唸る。

人の行動パターンを覚えさせるためにテレビ番組をよく見せていたのだが、放映内容までは考えていなかったと今更ながらに後悔する。

「んー、まぁ、間違いというか、相手によるというか、大人同士ではやらないんだよ」

凍り付いたバーナビーを余所に、虎徹は苦笑するだけだ。

「ま、マネしてみるってのは、人の行動パターンを学習するのに手っ取り早いんだろうけど、何でも鵜呑みにするのは減点な。TPOをわきまえなきゃ悪目立ちするだけだから」

すっかり父親の顔を貼り付けた虎徹が、にこやかにクロガネに注意する。

今は遠くに住む娘の面影でも重ねているのか、締まりのない顔で接する様子にバーナビーは奥歯を噛みしめる。


誤算だった。
あのアンドロイドが虎徹の庇護欲をここまで掻き立てるなどとは思いもしなかったのだ。
行き場をなくした手を引き戻し、一度膝の上で固く拳を作ると、バーナビーは席を立ってテーブルを回ると、虎徹の腕を取って立ち上がらせた。

「え、ちょっと、まだ食ってんだけど」
「いいから。今すぐ来て下さい。―――クロガネ、お前はここの片付けをしろ。その後は待機を」

一方的に命令を突きつけると、名残惜しげに皿に残ったチャーハンを気にする虎徹を肩に担ぎ上げる。

「うわっ」
「暴れないで下さい。落としますよ」
「ちょ、待てって! というか、なんで今日に限って荷物運びなんだよ。いつもそうしろよ!」

騒ぐ虎徹を無視して階段を駆け上がる。流石に階段から転げ落ちるのは避けたいのか大人しくなった虎徹の膝裏を支えながら空いた片手で寝室のドアを開ける。
そのまま乱暴にベッドの上に放り投げれば、シーツの上で跳ねた虎徹が抗議の声を上げた。

「何すんだよ!」
「何する? それはこっちの台詞ですよ」

あのアンドロイドは他の人間に対しては、従順に、表情を崩すことなく、模範的な振る舞いをする。これには勿論、虎徹も含まれている。
唯一の例外がバーナビーだ。
プログラムのバグなのか、情操教育の結果なのか、虎徹の顔をしたアンドロイドは事ある毎にバーナビーを挑発する。
冷たく光る赤眼でバーナビーを小馬鹿にしたように嗤いながら、虎徹と共にいる自分を見せつけるのだ。
まるで虎徹により近しいのは自分だと主張するように。

虎徹には何度も忠告した。だが、笑って聞き流すばかりで、耳を貸すことはなかった。
それどころか、

「どうしてそんなに仲が悪いのかね?」

不思議そうに鳶色の瞳を瞬かせるだけだった。

「あのワケのわからないアンドロイドをとっとと斎藤さんに返すなり、廃棄するなりして下さい」
「はぁ? 何を急に……」
「急なんかじゃありませんよ。そもそも最初から反対だったんです」

ベッドの上であぐらを掻く虎徹の上に覆い被さるようにベッドの上に乗り上げる。
二人分の体重を受けてぎしりとスプリングが悲鳴を上げる。

構わず虎徹の肩を押し、シーツの上に押し倒すと、慌てた虎徹がバーナビーの胸を押し返した。

「ちょー、待て待て待て! 下にクロがいるんだぞ?」
「だから何だというんです? そう言ってこの二週間拒み続けてきましたよね。いい加減、僕の忍耐も限界です。偶には僕の相手をしてくれても良いと思いませんか?」

ネクタイを乱暴に引き抜いて、シャツのボタンを外していく。

「バニーちゃん、待てっ……っん」

はだけさせたシャツの上から胸の先をぐりぐりと押しつぶすと虎徹の体がびくりと跳ね上がった。
久しぶりなのはお互い様だ。

「おじさんも期待していたんじゃないですか? 手荒にされるの、好きですよね、あなた」
「っんなわけ、あるか!」

言葉を封じるようにシャツを掻き分け直に肌に触れる。
しこりのように存在を主張する突起を指で捏ねると、背を仰け反らせて体を震わせる。

「そんなに舐めて欲しいんですか?」

突き出された胸に舌を這わせてくつりと喉奥で笑うと、髪を掴まれた。痛みに顔を顰めたが構わず口の中に突起を含む。
吸って噛んで、乳輪を舌の先でちろちろとくすぐると頭上で甘い息が吐き出された。

「あっ、……う、……あ、あっ……あ、ああ……!」

舌の腹で優しく捏ね、わざとくちゅりと音を響かせながら啄んでいく。
もう片方の乳首も刺激を与えることは忘れない。小さな円を描くように動かしてやると同じように乳首が立ち上がる。
指先で一定のリズムで刺激をくり返すと虎徹がもどかしげに首を振った。喉を仰け反らせ、無意識にだろう、腰を揺らす様にぞくりと煽られる。

髪を掴む虎徹の手は、今はもう添えられているに過ぎない。
乳首を舐められるだけで感じる淫靡な体。
性にノーマルだった虎徹の体を仕込んだのはバーナビーだ。

「可愛い、僕の虎徹さん……」
「な、何、言ってんだよ、……っ、……うんっ、ああ……っ」

首筋をきつく吸い上げて、赤い花を散らす。これは、この人は自分ものだと知らしめるために。
全身をなで回し、至る所に所有印を刻みつけながら舌で手で彼を味わう。汗にまじる彼の体臭、コロンの香りそして濡れて吸い付くような肌理細かい蜜色の肌。
鍛え上げられた年齢を感じさせない若々しい肢体を組み敷く度に、雄としての征服欲を煽られる。
虎徹の脚を割り、体の真ん中に居座ったバーナビーはズボンの下で存在を主張するペニスを布越しに掴む。
手の平全体を使って揉みしだけば、ズボンの下であっという間に張り詰める。
「ねえ、もうこんなに硬くなってますよ?」
耳朶の形を辿るように舐めながら囁くと、ぶるりと全身を震わせ、虎徹が涙目でバーナビーを見上げた。

「バニぃ……」

「下着の中、濡れてるんじゃないですか?」

羞恥心を煽るように耳元で尋ねると、ギュッと目を瞑り顔を逸らす。
赤く上気した頬にキスを落とし、窮屈そうに膨らんだズボンのベルトを抜き取り、殊更ゆっくりとジッパーを下ろす。
下着に大きな黒い染みを作りながら震える彼自身に指の腹を這わせる。こんもりと形をあらわにして脈打つペニスが愛おしい。

「ああ、やっぱりびちょびちょじゃないですか」

堪え性のない人だと揶揄して、彼の先走りで湿った指を虎徹の唇に擦り付け、歯列を割る。
奥に逃げ込む舌を追って、指を絡ませる。
半開きの口の端からツッと唾液が溢れた。

「どうして欲しいですか?」
「ぁ、んんっ…。ぁ、ふ…」

口蓋をなぞり舌を弄びながらも、下半身を弄る手は止めない。あくまで下着越しにしか触れない手にじれてか、虎徹がもじもじと脚をシーツに擦りつける。引き締まった内股に手を滑らせればひくりと下肢が跳ねた。

昏い情欲を吐息に混ぜて、耳に吹き込む。


「やさしくしたいんです。何をされたいか、どうして欲しいのか、教えて下さい。―――こんなにあなたを気持ちよくできるのは僕しかいないんですよ……?」


虎徹をそそのかすように舌の側面を指で撫でた後、ずるりと咥内から指を引き抜く。
口の端から零れた唾液を指で拭い、その雫を舌を出して舐めとりながら「さぁ」と言葉を強請る。

下着の上からペニス強く握りこんで上下に擦っても、布と皮膚との摩擦感は一切なく、硬くなった竿がにちゃにちゃと粘着質な音を立てるだけだ。

「あ、あ、……あ……ッ!!」
「虎徹さん…」

張り付いた下着が気持ち悪いのか、眉を顰め頭を振りながら虎徹は叫んだ。

「脱が、せてっ、直接さわってくれ! もっと強く、擦っ、てッ」
「はい」


抑えきれない愉悦に唇を吊り上げる。
片手で虎徹の腰を浮かせ、一気にズボンもろとも下着をずり下げた。協力するように膝の辺りでわだかまった服を虎徹が足で蹴って引き抜く。
バーナビーは脚を抱え込み、ぶるりと勃ちあがったペニスを口の中に招き入れた。

一気に飲みこんで喉奥で締めつける。

嘔吐感を利用して吸い上げるとたちまち口の中で屹立が長大する。
一度ぎりぎりまで引き抜き、ペニスを咥えながら頭を左右に振りストロークに捻りを加える。ただ上下に出し入れするよりこうした方が虎徹の快感が深まるのだ。

「―――…んッ、あっ、バニーっ」

じゅるじゅると水音を立ててまんべんなく先走りと唾液をペニスにまぶすと一度口から引き抜いた。
腹に反り返るほど育ちきった彼の分身にふっと息を吹きかける。
それだけでシーツを握る虎徹の手に力が入った。
粘膜の弱い鈴口、亀頭、カリ舌を順番に舐めてから、舌の表面より柔らかい舌裏の部分でペニスの表面を刷毛で刷くように微妙な強弱をつけてつっと這わせる。

「ふあっ…、ぁ、あ、ぅあっ…、ん、っ」

触れるか触れないかといった程度の接触を続けると、虎徹の腰がもどかしく揺らめいた。
バーナビーの髪を掴み、下肢に押しつける。

「バニー、もっと、ちゃんとシ、てくれッ…!」

泣き濡れた眼で睨まれてもこれっぽっちも迫力はない。
むしろ煽るだけだと果たして本人は気づいているのだろうか。
虎徹の息は甘く乱れている。その淫らな吐息を耳で心地よく感じながら、バーナビーは指で作った輪でカリの一番高い部分だけを擦るように前後運動させた。ペニスの硬さが増し、張り詰めた亀頭を頬張ると飴をなめるように咥内で転がす。口の中で大きく反り返るエラに気をよくする。男の身体は単純だからこそ、愛おしい。
手の平で柔らかく虎徹の陰嚢を包み、手の平全体を使ってゆっくり揉む。睾丸を前後に繰り返し握るように手を動かすと、

「ふ、んぅ」

虎徹が鼻に抜けるような甘えた声を漏らした。
ときどき中指を伸ばして、会陰部を擦るとこぷりと新たな先走りをペニスから流す。
陰嚢に隠れているペニスの根本を両手を使い人差し指と中指の先をそこに当て前後にゆっくりと押し揉む。先走りと唾液で濡れそぼったその先にある窄まりには敢えて触れず、中指で会陰の中心部を強く押す。
びくりと一際大きくペニスが震えた。

「あ、あ、っ、……だ、だめだ……バニ、……も、イかせて……っ」

ペニスの側面にかぶりつきながら、上目遣いで虎徹を見上げる。
欲に濡れた琥珀の双眼、上気した頬。健康的な蜜色の肌の上には赤い華が至る所に咲き、細い腰は誘うように揺れている。

ふ、ふ、と荒い呼吸音に交えて、絶え入るような甘い声で何度もバーナビーの名を口にしてせがむ姿は目眩がするほど扇情的だった。快楽に顔を歪め、仰け反った喉が露わになる。
ごくりと息を呑んだ。
その首筋に今すぐかぶりついて、彼の全てを奪い尽くしたい。凶暴な欲望がこみ上げる。

「バニー、も、う、ヤダ!」

涙声で訴える虎徹に一気に体中の血が沸き立つ。
バーナビーは亀頭を左右に軽く引っ張って尿道口を開くと、硬く尖らせた舌先で奥深くまでグリグリと刺激した。

「ああああーーッ! ああ、あっ、あ、あッ……ああッ!」

意味のない嬌声が虎徹の喉から迸る。
バーナビーの口の中で、虎徹のペニスがどくりと跳ねた。勿論口を離す気はない。放出を促すように先端を前歯で軽く甘噛みする。

「―――っん!!」

どくりと熱い飛沫が口の中に放たれる。
絶頂の余韻に、ひくひくと全身を小刻みに痙攣させながら、シーツの上に虎徹が沈み込む。呆けたように宙を見据えたまま荒い息を吐き出し胸を大きく上下させている。
黒い髪が首筋に張り付いているのを手で払ってやると、汗に濡れた琥珀の肌がふるりと震えた。
無防備でしどけなく、あまりにも蠱惑的で壮絶な色気だった。

バーナビーは音を立てて精液を飲み込むと、尿道に残った残留を吸い出しながら、裏スジを指の腹で軽く圧迫して、絞り出すように竿を扱いてやる。
くぅと、頭上で押し殺した声が漏れた。

緩慢な動きで脚を引き戻した虎徹が身を起こして、ベッドヘッドに凭れかかる。

「……よく飲めるな、そんなもの」

虎徹もせがめばバーナビーのものを咥えてくれるようにはなったが、いまだ精液を飲むようなことはなかった。
虎徹はそのことを済まなく思っているようだが、バーナビーは構わなかった。
あの肉厚の唇に扱かれ、不器用ながらも熱心に愛撫してくれる虎徹の姿に煽られるのであって、射精に関しては特に気にしていない。最終的に虎徹の中で果てられればどうだって良いのだ。

「Tiger's sweat.あなたのネクターはどんな美酒より僕を酔わせますよ」
「……お前ね」

げんなりと虎徹が溜息をついた。
呼吸は正常に戻っている。虎徹はバーナビーの顔を見上げると、肩を掴み顔を寄せた。
とっさに顔を背けると、

「だっ! 嫌なのかよっ」

不機嫌そうに顔を顰める。

「いえ、そういうわけではなく。うがいをしてきます。あなた、苦手でしょう」

口には出さずほのめかすと、キリキリと形の良い眼が吊り上がる。
首の後ろを掴まれ、強引に唇を重ねられた。
歯列を割った舌がバーナビーの咥内を縦横無尽になめ回すと、唾液の糸を残して、肉厚の唇は唐突に離れていく。

「虎徹さん……」
「バカだな、俺のやつだろ。お前が気にすることじゃない」

赤く頬を染めたままそっぽを向くように告げられて、バーナビーは虎徹に抱きついた。

「虎徹さん、虎徹さん」

彼しかいらない。彼しか欲しくない。独占欲と愛情に支配された自分を丸ごと受け入れてくれるのは虎徹だけだ。

「おい、苦しいって。つーか、お前も脱げよ! 俺だけ不公平だろっ」

眼前に突きつけられた指先に齧り付いて、バーナビーは笑った。


「それって、誘っているんですか?」





たっぷりとローションをまぶした指先をアナルから数センチ離れたところから円を描くように、ゆっくりと動かす。

窄まりに近づいたところで少し圧迫するように力を入れ、また渦を描きながら遠ざけていくと、肩に担いだ虎徹の脚から明らかに力が抜ける。

その瞬間を狙いすまして、つぷりと人差し指を挿し込んだ。うっと、呻き声が上がるが、虎徹の入り口はヒクヒクと蠕動しながらバーナビーの指を締め付ける。
何度しても慣れることのない身体に少しだけ申し訳なさを感じながら、身を乗り出して引き結ばれた唇を啄む。

舌は使わず、長く、長く、唇だけで虎徹の唇を愛撫する。
ちゅっちゅっと音を立てて何度か吸い付くと、そのうち耐えかねたようにうっすらと開かれる唇。
舌を差し出すと下半身の異物感から逃げるように虎徹が舌を絡めてきた。
前歯をなで上げ、唇の裏側を嘗め回し、歯茎をつつき、濡れた舌と舌を擦り合わせる。あふれ出た唾液を舐め取ると組み敷いた体から徐々にこわばりが溶けていく。彼の身体が慣れるまで焦らず指一本で丹念に内部を探る。

やすやすと抜き差しが出来るようになったのを確認して、咥内から舌を引き抜いた。

「あっ、……ん」

刹那に洩らされた、名残惜しげな声。足りないと言わんばかりに追いすがる虎徹の舌を受け入れ、好きにさせる。ぴちゃりと仔猫がミルクを舐めるように吸い付いてくる肉厚の舌に軽く歯をたてると、ひくんとアナルの締め付けが増した。
バーナビーはローションを足して、今度は二本、虎徹の内部へと潜ませる。

「んんっ」

口の中でくぐもった悲鳴を分け合いながら、項垂れたペニスに指を絡めて挿入を模した指の出入りを繰り返す。
ローションが泡立ち、ぐちゃぐちゃと、いやらしい音が寝室に響くようになる。
二本の指をすんなりと受け入れるものの、探るように指をまわすと虎徹は苦しげに眉を寄せた。

「………大丈夫ですか?」

指を締め付け、蠕動する内部に、まるで自分の性器を締め付けられているような気がして、思わず唾を飲み込む。
早く突き入れたいという思いと、少しでも楽にしてやりたいという反面する思いを抱えながら三本目を挿し込む。

「あ、あぁぁ、ん、た、たぶん、へい、き」

既に焦点が合っていない目を瞬かせながら、虎徹が頷く。
バーナビーは前をリズミカルに上下させながら、虎徹の中にあるふっくらとしたしこりを指先で掠めた。奥深くもなく、浅くもなく、ちょうど茎の根元辺りにある性感帯。

「ひぃ、あ、あ……!」

前立腺を刺激すれば、大きく肩を揺らして虎徹が悲鳴を上げる。
ぼろぼろと涙を流して頭を振り、ぎゅっとシーツを握りしめる。
それでも身体は正直で、二人の腹に挟まれた屹立は涎を垂らしながら揺れている。少しきつそうに眉をしかめながらも、前立腺への刺激を交えて慣らした虎徹のアナルは柔軟にバーナビーの指を受け止めた。

ローションの滑りを借りて尚も挿入を繰り返し、内部を割り広げ、抉る。

「柔らかくなってきましたね。僕の指に絡んでくる」
「うっ……あ!……」
「もう、挿れてもいいですか?」

頬を上気させ、はぁはぁと虎徹が荒く息をつきながら小さく頷く。
指を引き抜いたバーナビーは、虎徹の脚を持ち上げ、両膝を胸の前あたりで曲げて大きく左右に広げさせた。
立ち上がったペニスも、尻の穴すら丸見えになる。赤く色づき、ヒクヒクとひくつくその場所に誘われるように、切っ先を押しあてた。
そのまま、めりっ、と音が聞こえそうな勢いで、先をのめり込ませる。

「ひぃ、あ、あ……!」

いくら指でよく慣らしたといっても、比較にならない大きさに虎徹が全身を震わせる。

「まだ……半分しか、入ってません。もっと力を抜いて」

あやすように髪を梳き、首元に胸に口づけを落としながら落ち着かせるように手の平で肌の表面を撫でる。
ずるずると呼吸に合わせて、全てを押し入れると、バーナビーは虎徹の体の上に体重を任せた。ぴたりと合わさった裸の胸から虎徹の鼓動が伝わってくる。きっと虎徹にもバーナビーの鼓動が聞こえているはずだ。競うように早鐘を打つ鼓動にじわりと熱が上がる。熱っぽい吐息が唇から漏れた。
お互い、すでにいつでもイきそうなくらい、性器が張りつめている。

「これで全部、入りました。……痛くないですか?」

「大丈夫……う、動くか?」

「出来れば。僕も限界です」

虎徹の呼吸に合わせて、腰を引く。
排泄感に泣きながら「ひっ」と喘いだその喉に軽く歯を立てた。

絡み吸い付いて離れない内壁の動きは淫猥で、歯を食い縛って耐えるのが精一杯だ。
根元まで深々と埋めたまま果てたい衝動を抑え、恥骨を掴むと腰を揺らし打ち付ける。前立腺を掠めると高い悲鳴が上がった。

「だめッ、ン、あああッ!」

虎徹のペニスは腹にくっ付くほどに反り返り、とめどなくシーツを濡らし続けていた。
快感を貪り乱れる虎徹を眼下に、必死に射精感を耐えながら言いしれぬ恍惚感を味わう。
柔らかく解れた入り口がきゅうきゅうとバーナビーを締め付け、熱く蠢く。
中を掻き混ぜるように腰を回せば、ぐちゃりと粘った水音が耳の奥まで届いた。
腰を前後に律動させ、虎徹の中の弱い部分を執拗に攻めた。

「ああッ! いや、だ、そこ、ひっ……ッ!」

瞬きをした瞬間にぽろりと零れ落ちた大粒の涙を、身を屈めて舐め取る。
内部を抉る切っ先の角度が変わって、虎徹の口が開かれたまま大きく戦慄いた。
シーツを掴む虎徹の手を外して指を絡める。

「イきますよ、虎徹さん…っ」

内襞が捲くれ上がるほど、ぎりぎりまで引き抜くと一気に前立腺を目がけて突き挿れる。

「―――ああっ、あっ、ああ……っ!」

きゅぅっと内部を締め付け虎徹が達したと同時に、バーナビーも激情を奥深くに注ぎ込んだ。
大きく息を吐いて、抱えていた脚を下ろす。
ぐったりと弛緩した虎徹の上に重なり合い、そのまま虎徹の背に腕を回して抱き込んだ。





二人分の荒い息が室内を満たす中、ぐっと胸を押されて気怠い上半身を起こすと、顔を顰める虎徹と眼があった。

「お前……少しは加減しろ、よ」


眉を寄せて「腰いてぇ」とぼやく虎徹の髪を梳いて、バーナビーはすみませんと儀礼的に謝る。

「……全然、反省してないだろ」
「ええ」

正直に答えると年上の恋人の頬がひくりと引き攣った。

「これでも手加減した方ですよ。二週間、僕にお預けを強いたあなたが悪いんです。これに懲りたらクロガネばかり構わずに、僕の相手も小まめにして下さい」

髪の生え際に浮かんだ汗に唇を落とすと、はぁと盛大な溜息を吐かれた。

「子供みたいなこというなよ」

(子供ですよ)

口には出さずに虎徹の脇の下に腕を入れて抱き起こすと、そのまましがみついた。


(子供ですよ、僕だってまだ)


積年の悲願だった両親の仇を討ったのは数ヶ月前。
二十年間、ただひたすらに追い求めていた、生きる標となっていたものが消えたのだ。
これからの人生をどう過ごせばいいのか。何のために、誰のために生きればいいのか。
考えることを放棄していたバーナビーは途方に暮れた。それほどまでに復讐が全てだったのだ。
今更自分の為というには、無欲に生きすぎた。
ぽっかりと心に空いた穴をもて余していたバーナビーに手を差し伸べ、新たな世界を見せてくれたのは虎徹だった。

(あなたが新たに生まれ変わらせたんだ、バーナビー・ブルックス・Jrという存在を)

バディとして、―――恋人として。
とろとろに甘やかして頼ることを覚えさせたその責任は取ってもらわないと困る。

「ったく、バニーちゃんはいつまで経ってもおこちゃまでしゅね」

わざとらしい幼稚言葉でからかわれ、髪を掻き混ぜられた。
乱暴な扱いに顔を顰めると、クロガネに対する時よりも、ずっと慈愛に満ちた特別な眼差しを向けられ微笑まれる。
その笑みに見蕩れて眼を丸くしたところで頬を包まれ、ちゅっと音を立てて離れるバードキス。
保護欲に交ざる情欲に再び疼く下半身をもて余しながら、

「そうですよ。知らなかったんですか」

甘えるように虎徹の肩に額を擦りつけて、ほくそ笑む。
それでいい。
大人になっても物覚えの悪いバディには情と体に訴えるのが一番だ。




べとついた身体が気持ち悪い、でも動きたくないとシーツにくるまり駄々をこねる虎徹に、後で風呂に連れて行く約束をしてベッドから降りる。
床に脱ぎ散らかした服からワークパンツとシャツを拾い上げ身につけていると、

「どっか出かけんのか?」

肘杖をついて虎徹がこちらを見ていた。

「買い物に。チャーハンを作っていたってことは、冷蔵庫の中が空っぽなんでしょう? 当座の食料を買い込んできますから、それまで寝ていてください」

剥きエビが入っていない時の虎徹のチャーハンは、冷蔵庫の中身の片付けを兼ねている時が多い。
あり合わせの材料で作るので、その都度具材が変わるのだ。

「あー、そうだ、忘れてた。いい機会だから、クロも連れて買い物に行こうとしてたんだよな」

クロガネをラボから引き取ってから、一度も家の外に出していなかった。
誤報であると訂正されたとはいえ、シュテルンビルト中に虎徹の素顔が晒された今、虎徹と酷似した外見を持つクロガネと連れだって街中を歩くことは過分な注目を集めかねない。
バーナビーまで揃えば尚更だ。

「クロと行く気なんて…ないよ、な…あはは……」

途中から語尾が尻つぼみになったのは、バーナビーの絶対零度の視線に気づいたからだろう。
バーナビーは鉄壁の笑みを浮かべて「これっぽっちもありませんね」と断言する。

「買い物から帰ってくるまで大人しく、待っていて下さいね?」
「……はい」

湿ったシーツに突っ伏した虎徹の髪を梳き、最後にバーナビーは濡れた虎徹の項に口づけた。

「どうしても耐え切れなかったら、クロガネに頼んで処理してもらってもいいですよ?」

中に出したヤツ、と耳に吐息と共に吹き込む。

「っだ! そんなこと出来るワケねーだろ!!」

否定されることを確信しながら尋ねれば、案の定跳ね起きた虎徹ががなる。

「あなたが誰のものか見せつけるチャンスだったんですけどね」

サイドチェストに置いておいた眼鏡をかける。

「―――…なんで、そんなにクロを嫌うんだよ」

それはバーナビーに聞かせるつもりのなかった本音なのだろう。
枕を抱き込んだ虎徹が身を丸くしながらシーツをたぐり寄せる。
だからバーナビーも答えず、寝室を後にした。


その眼が、凍り付く。

感情の一切を排除した、ただどこまでも透徹した眼差しを横に滑らせる。

(嫌っている? 冗談じゃない。そんな生やさしい感情ではない)

「―――いつまで覗いているつもりだ、クロガネ?」



抑揚のない、無機質な口調で問う。
その視線を受けてクロガネは虎徹と同じ形をした口唇を開く。

「覗いてはイナい。片付けガ終わったカラ、報告に来たダケだ。それにドコで待機するかは、指定されていない」

否定するクロガネにバーナビーはつまらなそうに鼻を鳴らした。
ドアの横に立つクロガネを押しのけるようにして廊下に出ると、胸座を掴んで壁に押しつける。

「言い訳にしては、お粗末だな。退け。この部屋には近づくな」

見下ろすクロガネが不意に嗤った。

「随分ナ言い草ダナ? 少し前まではあんなに『虎徹さん、虎徹さん』と懐いてオレを呼んだク……っ」

ガッと壁に頭を打ち付けられたクロガネは顔を顰めてバーナビーを見据える。

「本当のことを言われたからって怒るなよ、バニーちゃん」

「黙れ! ただの出来損ないのコピーが、あの人を演じるな!!」

虎徹の口調を忠実に再現されて、一気に血の気が上がる。
普段は不慣れな片言の言葉を操るくせに意図すればどこまでも流暢に話せるのだ、このアンドロイドは。
そうしないのは、不器用さを全面に出した方が虎徹の関心を引けると知っているからだ。

「いつかその化けの皮を剥いでやるっ」

押し殺した声で憎々しげに宣言すれば、クロガネは赤い眼を光らせた。


「―――作られた存在であるアンドロイドは、相対する人間が望むように振る舞うようプログラムされている。虎徹はオレに対して無垢であることを望んだ。真っ白で無口で無表情なオレを『人間らしく』育てることが面白いんだろう。お前は、オレに対して八つ当たりができればいいんだよな? 憎むべき対象であって欲しい。虎徹に対しての罪悪感を忘れずにいる為にも」

聞き慣れた虎徹の声よりも少し低い、抑揚のない声で、


「そうだろう、バーナビー」


名を呼ばれた瞬間、ぞわりと背筋に悪寒が走った。
虎徹と同じ顔、同じ声音で、バーナビーを見下す。
バーナビーが記憶を操られてサマンサを殺した犯人だと思い込み拳を向けた時も、そして記憶を取り戻した後も虎徹は一度もバーナビーを責めなかった。ただ、自分を思い出してくれて良かったと泣いて喜んでくれた。

その事実がバーナビーを苦しめる。
本意ではなかったとはいえ、本気で虎徹を憎み倒そうとした事実が消えるわけではない。
けれど、今更謝罪など虎徹は受け入れないだろう。この先もずっとだ。

ぐずぐずと燻っていた気持ちを、冷めた赤眼に見透かされたような気がしてバーナビーはクロガネの胸座を掴む手を放し、顔を背けた。
虎徹がいない時に、目の前のアンドロイドと二人きりになることを極力避けたかったのは、偽物だと分かっていても、あまりに似すぎていて本物の虎徹と比較していないと不安になるからだ。
感情のない冷めた眼差しで虎徹に見据えられるような事態が、あのまま記憶を失っていれば、近い将来現実に起こりえたかもしれないと。


「―――…シャワーを浴びたら、出掛けてくる。僕が帰ってくるまで虎徹さんには近づくな」
「オレのマスターは虎徹ダ。お前の命には従えナイ」
「つっ!!」

あっさりと命令を撥ね付けたことに舌打ちしてバーナビーはクロガネを睨み付ける。

「優先順位は二番目に設定されているはずだ。虎徹さんの指示がない時は、僕の命令が最優先される、そうだろう?」
「……了解シタ」

クロガネが頷くのを見届けて、バーナビーは奥歯を噛みしめながら階段を下りる。
あのアンドロイドは本当に嫌になるぐらい、『人間的』な振る舞いをするようになってきた。相対した人の感情を揺さぶることなど、普通のロボットなら考えられないことだ。
どうしようもない苛立ちと焦りを抱えて、バーナビーは一度壁を殴りつけるとバスルームに飛び込み服を着たまま頭から冷水を浴びた。




シャワーを浴びたバーナビーが買い物に出掛けるのを見送ったクロガネは、視線を宙に定めて蓄積されたデータの解析に入った。

解析を終えたクロガネは一つ瞬きをして天井を見上げる。正確には、二階を。

「近づくな、か。こういう時のセオリーでは、期待に沿わなきゃいけないんだろう?」

ちろりと赤い舌で唇を舐めて、嗤う。
どんな意図かは知らないが、こんな機会を逃す手はない。
クロガネは音も立てずに階段を上り寝室へ滑り込むと、寝台で眠る虎徹の元へと近づいた。

「大丈夫か、虎徹?」

ベッドの端に腰掛けて、額に濡れて張り付いた髪を剥がしてやる。
くすぐったいのか「んんっ」と首を竦めてシーツに隠れる。
尚も髪を梳き続けると、うっすらと目蓋を開いた虎徹が名を呼ぶ。

「……ばにぃ?」

眠気が勝るのか舌っ足らずに恋人の名を呼ぶ声にクロガネは唇を吊り上げた。

「オレだよ、虎徹」

覆い被さり、首筋に浮かんだ赤い痕を吸い上げる。
びくりと肩を震わせ、「え、え、えっ?」と意味を成さない声を上げる口を塞ぎ、肩を掴んでベッドに押しつけた。

「クロ? お前、いったいどうしたんだよ」

不思議そうにこちらを伺う虎徹に、クロガネはツゥと肌に浮かぶ赤い痕を押す。

「痛い?」
「え? ―――っ、だ、大丈夫だ、痛くないから取り敢えず退いてくれ。ケガじゃねぇから、安心しろ!」

誤魔化すようにシーツを纏い、身体を隠す虎徹に、クロガネはシーツからはみ出たふくらはぎを撫でる。
肌の僅かな凹凸を辿るように指の腹で触れると、びくりと身体を震わせる。

「知ってルか、傷跡ハ性感帯になるんダゼ?」

鳶色の目をまん丸にして固まった虎徹に、嗤う。
身体をずらしてシーツをはぎ取ると、腹の火傷の痕に舌を這わす。


「ひぃっ」
「虎徹の身体は性感帯だらけダナ」
「うっ、く、止めろっ」

十年間のヒーローとしての歴史が刻まれた肉体には大小、新旧取り混ぜて様々な傷痕がある。幾ら特殊なヒーロースーツを身に纏っていたとしても、中身は生身の人間だ。
一つ一つ身体に残された傷痕を舌と唇で丹念に撫で、優しく舐める。
押しのけるために肩に置かれた手が、いつの間にかしがみつくようにクロガネの肌に爪を立てる。

「汗、涙、唾液、精液……。いいな、虎徹は。全て本物だ。オレのハ全てが紛い物だけど」
「く、ろ、もう、も、お、ヤメて、くれ…っ」

身体の奥に燻っていた熱を煽られて息を乱す虎徹の眼にうっすらと涙の膜が張っていく。
眼の縁から盛り上がる雫を舌先で舐め取れば、脳は成分を分析して「しょっぱい」と判断するはずだ。
髪に鼻先を突っ込めば汗と虎徹の匂いがする。アンドロイドの自分にはどうやっても再現できない本物と味と匂い。

「教えてクレ、虎徹。本物に近づく為ニハ、どうしたらイイ?」

背骨を辿り、尾てい骨まで下ろした指で湿り気を帯びた窄まりの周囲をなぞる。

「ココに挿れたら、もっと本物らしくなれるカナ」
「バカっ、クロガネ!!」

顔を真っ赤にして制止の声を上げる虎徹を無視して、締め付けるアナルの括約筋を掻き分け指一本を突き刺す。
つぷりと、そこは指一本を楽に飲み込んだ。

「あうっ」
「入り口は狭いのに、ナカは濡れてアツイな。二本目もすぐに入りそうダ」

バーナビーの残した白濁がクロガネの指に絡みついてくぷくぷと音を立てる。

「やだ、やめっ、クロ! 本気で怒るぞ!」

きゅうきゅうと指を締め付けながら虎徹が身をよじる。その拍子にイイところに当たったのか「うあっ」っと喉を仰け反らせて喘いだ。


「どうして? 虎徹のココは悦んでる。もっと欲シイと、言っているのに」

指を折り曲げ、ふっくらとしこりになったソコを突く。

「教えてくれ、もっと。バーナビーがシタようなこと、オレもシタい。虎徹がイイとオレも嬉しい」

んーんーと、唇を噛んで声を殺す虎徹の赤く色づいた耳朶を食み、クロガネは囁いた。



「バーナビーがいない間に楽しもうぜ? なぁ、虎徹。オレのマスター……」